カリフォルニア便り 第4号
スタンフォード大学CSLI, Visiting Scholar 伊藤英一
スタンフォード大学滞在も、あと半年..
- はやいものでアメリカ生活も5ヶ月となりました。つまり、アメリカ生活&スタンフォード大学での研究も、残すところあと半年となってしまいました。当初は生活のセットアップに追われて落着かない日々が過ぎていたように思います。また、CSLIも夏休み期間中はインターンの学生などがいたため、活気に満ち、刺激的な日々でしたが、なかなか落ち着いて仕事が出来なかったようにも思えます。
- 最近、故障して動かないコンピュータを何台か借りて、1セットなんとか動くように修理してWindowa98を導入しました。ラックを借りて、机の上のゴチャゴチャを移動したため、開発環境が少しだけ改善されました。
障害者向けコンピュータインタフェースの限界
- 今日までの障害者向けコンピュータ・インタフェースの開発は、それぞれターゲットとなるコンピュータ(メーカー、機種、OS)毎に行ってきました。もちろん原因はコンピュータ・メーカーが各社異なる規格のキーボードやマウスを製造していたからです。しかし、時代とともにある特定のコンピュータ・ハードウエアが市場を占有しはじめると、多くのメーカーは先を争うようにそのハードウエアを製造しはじめるのですが、その規格はだれかが決めているわけではなく、市場原理により「売れる製品」の規格が標準の顔をしているだけです。そのため、予測仕切れないほど更新されていきます。もちろん、その規格だけではなく自社の規格を大切にしているコンピュータメーカーもあり、結局今日に至ってもキーボードやマウス等の入力インタフェースは規格化されていません。
- 実際に障害者向けのキーボード
を例に挙げてみると、キネックスはMacintosh用、Wivic2はIBM PC(PC/AT)機用、KBマウスやノンタッチキーボードはNEC PC9801(旧製品)用といったように、そのパソコン専用に作られているのが現状です。もちろん、インテリキーやミニ・キーボードと言ったようにPC9801用やIBM PC用と各種PC別に製造されているものもありますが、結局それぞれ別々のハードウエアですから、1台をそれぞれで使う事は出来ません。
ポインティングデバイス
についても同様な状況です。
- ドライバソフト等が必要なものであればOS(オペレーティングシステム、基本ソフト)等にも依存します。さらにソフトウエア・キーボードのような、OSや併用するアプリケーションソフトに依存してしまうものも多く存在しています。例えば、OSはWindows3.1Jで、しかも特定のワープロソフトには使えないものなども存在しました。
- OSはともかく、アプリケーションソフトに依存させないためにはOSメーカーがきちんと対応する事が必要で、AppleはMacintoshOSで、かなり細かい所までソフト開発者に対して 指示をしていたのですが、これが逆にソフト開発を困難にし、またどのソフトも同じような感じになってしまう嫌いも在ります。また、Windows95からマイクロソフトもようやくここに力を入れてはじめました(
MSAA
)。しかし、MacOS、Win95や98というOSの枠があります。しかも、それぞれ独自のもので共通ではないために、それらOS以外はだめなのは当然ですし、WIN/MAC相互の互換性もないのが現状です。
ユニバーサル・アクセスのためのインタフェース
- そのため、複数のコンピュータを操作しなければならない人(現在、複数のコンピュータを利用することはなんら特殊なことでは在りません)や学生、コンピュータを操作する仕事等の場合には問題となります。つまり、職場や学校のマシンが複数機種だったり、職場や学校にあるマシンと自宅のマシン、図書館のマシン、アーケードのマシン、顧客のマシン、友人のマシンなどは同じ物ではないのが普通です。そのため、全てをもっとも利用者に適したインタフェースで使うことは現時点では不可能です。
- これを解消するものとして考えられる事は、なんらかの共通仕様をもつインタフェースを作り上げ、その共通インタフェースを通したとしても、キーボードやマウスなどの標準入力装置と全く同じように動作すれば良いわけです。利用者は自分に適した専用の入力インタフェースを持ち歩き、この共通インタフェースを持つマシンであれば、どんなアプリケーションソフトであろうとも、どんなOSであっても、どこのメーカーのマシンでも使える環境になります。これを実現するのが、ここスタンフォード大学CSLIのアルキメデス・プロジェクトで研究しているトータルアクセスシステム(TAS)なのです。
- しかし、現在のコンピュータ等はこの共通インタフェースを持っていませんし、各メーカーにもそれらを統一しようとする気が無いようです。そこで共通インタフェースを持ち、各種コンピュータのキーボードとマウスの信号を作り出すことの出来るインタフェースのインタフェースを作りました。これがTAP(トータル・アクセス・ポート)です。現在、IBM PC(PS2)や、Apple(ADB)のコンピュータ用のものと、SunやSGI,HPのワークステーション用のTAPがあります。
- 現状の共通インタフェースとしてはコンピュータ用通信システムである、RS232C(速度:19200BPS)を利用しています。共通インタフェースにキーボード入力やマウス操作のコマンド(指令)をそこへ送信することにより、コンピュータの種類やOS、使っているアプリケーションソフトの違いに関係なく、マウスの移動、ボタンの操作、キーボードの入力が実行されます。
- このTAPに接続するための入力装置、つまり各ユーザーがそれぞれ保有するインタフェース(アクセッサー)としては、現時点で音声認識アクセッサーと視線入力アクセッサー、フットスイッチアクセッサーがあります。また、私がこちらに来て作ったものに、1つのスイッチでマウスと同様の機能を有する小さなアクセッサーがあります。
- 現在、このTASを拡張した新しいシステムを研究しています。今までのTASはコンピュータ操作だけでしたが、新しいシステム(TAS−2)にはネットワーク機能を搭載し、テレビなどの家庭電化製品や街頭の自動販売機などのコントロールも行えるようなものを考えています。そこでも基本部分となるTAPを現在試作中であり、私のラック(先頭の写真)には、苦心の作の電子基板や評価中の回路が並んでいます。
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September 30th, 1998
伊藤英一 Eiichi ITO [ ito@csli.stanford.edu ]
Visiting Scholar, The Archimedes ProjectCSLI Stanford University