カリフォルニア便り 第3号
スタンフォード大学CSLI, Visiting Scholar 伊藤英一
アメリカ(カリフォルニア)の小学校への転入
- 渡米後、アパートを見つけて車を借り、なんとか生活できるようになったら、息子達の転校手続きが待っていました。まずは最寄りの学校区事務所(School District)へ出かけます。これからご紹介するのは、自分たちの住んでいる学校区(Mountain View Wisman School District)における状況で、しかも、私たちの経験に基づくものです。アメリカでも州や学区により内容は異なりますのでご注意を!。さて、School Districtにて日本から持参した英文の在学証明書と成績証明書、予防接種の証明を提出し転校手続きを行った後、定員に余裕の有る学校への転入が決まります。しかし、登校するためには所定の予防接種が全て終了していなければなりません。しかも、ここカリフォルニアでは日本の予防接種よりも必要なワクチンの種類も回数も多く、そのまま日本での接種だけでは通学できませんでした。事務所で教えてもらった診療所に行き、長男(当時10歳)は2種類、次男(当時5歳)はツベルクリン反応も含めて4種類の接種を一度に受けました。日本では一度に複数種の予防接種など考えられないことです。予めそのような実態を把握していたのでびっくりはしませんが、担当医に後遺症(発熱、痛み)の対処などをしつこく(英語のボキャブラリが少ないことからしつこくなってしまうのですが...)聞いた所、必要ならばこれを使えと一般的な解熱兼痛み止め(TYLENOL)を渡されました。また、長男の場合にはツベルクリン反応が陽転しているため胸部X線も必要だということでしたが、これはBCG接種のためであり、現時点で結核の症状が無いので問題無いと食い下がったため、無意味な被爆は防げました。何事も主張しない限り、また自分や家族のことは自ら責任を持って対処しないと大変な事にもなり兼ねません。自由や権利と同様、大きな責任が個人にあります。ようやく、アメリカにおける生活の法則が見えてきました。
- アメリカでは9月が新学期です。また、学年もその年の12月に6歳になるのであれば小学1年生として入学できます。そのため、日本では5年生になったばかりの長男(早生まれ)は、渡米時5月の時点ではまだアメリカでは4年生であり、自宅近くのTheuerkauf Elementary Schoolに編入となりました。また、日本では来年4月に新1年生となる次男はKindergarten(幼稚園)に編入なのですが、定員が一杯のようなので1年生のクラスになりました。校舎は周辺の学校も含めて全て平屋建てであり、しかも立て替えが効くように木造です。校庭はコンクリートが打って有るバスケットコートや芝生の公園のようになっています。通学には学区の巡回バスもあるのですが、様々な所を回ってきますので時間が掛かります。そのため、多くの家庭では徒歩や、自家用車での送迎をしています。まったく英語の解らない息子と、また日本人がほとんどいないために息子の言葉を理解できない担任教員との意志の疎通を図るために、毎日息子と一緒に登校しました。また、定期的に様々な社会見学(Field Trip)があり、その都度親のボランティアが支援をしています。そこで、母親(妻)は長男4年生の社会見学でNASA Aims Research Center、次男の遠足でSanFrancisco Zooへと付き添って行ってきました。そして1ヶ月があっという間に過ぎ、ようやく学校にも慣れてきた頃、残念ながら長い夏休みが始まってしました。
アメリカでの夏休み
- 長い夏休み(6月上旬から8月一杯)は日本の夏休みと異なり、学年の区切りでもあるため、宿題がありません。また、大半の子供たちは自分でやりたい事や得意なスポーツ、興味の有る課題をサマースクールやサマーキャンプと呼ばれている課外授業で研鑚します。そのため、得意な事柄はどんどん伸び、自らの発想や興味、関心を磨き、専門的な知識を学ぶ機会も大変多いです。特に科学技術教育に関しては盛んであり、各地にある科学館(大半はNPOにより運営管理されている)では実際に体験(実験)ができ、水族館等でもかなり専門的な事柄に付いて、わかりやすく解説してくれるガイド(ボランティア)が常時います。また、図書館ではインターネットで自由に情報を検索したり、興味の有るホームページを印刷したりできます。我が家でも、長い夏休みを如何に過ごすか検討しました。まず英会話のTutorを探しました。なかなか見つかりませんでしたが、小学校の美術の先生(日系の方で日本語が話せる)が引き受けて下さいました。また、長男は物を作ったり絵を描くのが好きなので、Art Schoolも探し、スタンフォード大学の近くにある美術教室が開催するサマースクールに1週間通いました。
- このArt Schoolで、息子が数年間、日本の(画一的な)初等教育を受けてきた影響を思い知らされた不幸な出来事がありました。Art Schoolの授業では始めに教材や使い方、効果等の説明があるだけで、テーマとか、何かを描かないといけない等という課題はありません。好きなこと等、何を描いても、どのように工夫しても良いのです。しかし、今まで課題を与えられ続けてきた日本人の息子には何をどうしてよいのかわからず、しばらく何も出来ませんでした。他の生徒達はどんどん自分の世界を作りあげていくのですが、唯一の日本人の息子は紙とにらめっこしているだけでした。これが、日本の初等教育の実態なのでしょう。しかし、まだ年齢も低いためそれなりに順応も早く、2日目からはなんとか描けるようになり、最終的には十数点もの作品を作り上げました。先日、Art Schoolの画廊で作品展があり、子供達の力作はそれぞれがすごい迫力です。日本にはスポーツ、芸術、科学技術に限らず、親が子供の教育に責任を持てる環境整備(指導要録などによる画一的なトップダウン式詰め込み教育ではなく、親や地域が教育の内容を決定できるシステム等)が必要なのではないでしょうか。
夏期休暇中の大学における教育システム
- 私の所属するスタンフォード大学・言語情報研究センター(CSLI)では夏にインターンの大学生や大学院生で溢れかえります。多くの学生は日本の学生とは異なりアルバイトではなく、大学、民間、連邦等の研究機関などにおいて、彼らの専門や興味のある分野において研究助手として働きます。しかも、世界中からここにやってきます。アルキメデス・プロジェクトにも英国ケンブリッジからも一人来ていました。もちろん、多くの学生は即戦力としての研究活動をするわけではなく、例えばインターネットのWebの管理をしたり、データの収集管理、簡単なプログラミングをする訳です。もちろん、これらは単なるボランティアではなく、進学や就職に際して意味を持ちます。夏期休暇中のインターン活動は、どこでどのような活動に従事したのかが経歴の一つになる重要な事項です。日本の履歴書には、どんなアルバイトをしたかとか、ボーイスカウト等を小学生からしていたなどの情報は記載しません(記載する個所が無い)し、記載したとしても重要視されません。しかし、アメリカでは学歴と同様にそれらを重要視していますし、ボーイスカウト活動等が社会的にも大変認められている事は事実です。
今回は文字ばかりになってしまいました。写真などを期待されていた方には大変申し訳ありませんでした。
次回(第4回)予告: ユニバーサル・インタフェースの研究(変更の可能性もあります)
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August 31th, 1998
伊藤英一 Eiichi ITO [ ito@csli.stanford.edu ]
Visiting Scholar, The Archimedes ProjectCSLI Stanford University