カリフォルニア便り 第1号
スタンフォード大学CSLI, Visiting Scholar 伊藤英一
はじめに
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1年間、障害者向けコンピュータ・インタフェースとユニバーサル・デザインの研究をするため、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郊外にある
スタンフォード大学へ来ています。サンフランシスコはカリフォルニア州北部に位置し、ゴールデン・ゲート・ブリッジやアルカトラズ島(アルカポネなどが服役していた元監獄の島)、坂道を走るケーブルカーなどで有名ですが、大都市ロスアンジェルスとはかなり離れています。(私は数年前まで知りませんでした。)
- サンフランシスコの市街地は半島の先端に位置しており、その半島の根元付近、サンフランシスコから車で約1時間ほどの所に電子産業のメッカ、“シリコン・バレー”が広がっています。ご存知の方も多いと思いますが、この“シリコンバレー”とは地名ではなく、スタンフォード大学周辺の半導体製造や電子機器、情報産業が集まっている地域を指しています。ヒューレット・パッカード、サン・マイクロシステムズ、アップルコンピュータなどの本社やNASAやゼロックス、日系企業の研究所も多く、ここで働くために有能な人材(高給取り)が世界中から集まっており、この界隈は東京都心と同じように地価が急騰しています。
- 話しによれば、これまで全米1位の地価を誇っていたハワイ州ワイキキビーチ周辺を抜き、シリコンバレーがもっとも高い所になったとも聞きます。そのため、私のように私費で来ている者にとって、暮らしていくための経費が馬鹿になりませんが、逆に治安を考えるならば比較的安全な所ともいえます。
スタンフォード大学 言語情報研究センター(CSLI)
- スタンフォード大学は、それ自体が一つの行政区(市)となっているほどキャンパスは広大で、大学の無料巡回バスや路線バス、車、自転車等を利用しなくてはとても移動することができません。路線バスにもリフト装置が付いており車いすによる乗車は可能なのですが、それ以上に驚かされるのは自転車の利用者もバスが利用できるように、車外に自転車を架けるためのフックがあることでしょう。
- スタンフォード大学はアメリカでも有名な私立大学のひとつで、ノーベル賞受賞者が8名もいる世界的な研究機関でもあります。広大な敷地は約100年前にできた財団の創設者スタンフォード氏(元カリフォルニア州知事、元連邦上院議員)の個人の農園の一部であったことにも驚かされますが、大学自体が一つの行政区(市)として機能しています。
- さて、スタンフォード大学には学部や大学院という教育機関とは別に、独立した研究センターが20ほどあります。その一つに私が所属している
CSLI:言語・情報研究センター
があります。ここには非常勤を含め100名ほどの研究員(学部や大学院など他の施設の教職員と併任もある)と私のような短期間滞在する客員研究員が所属し、コンピュータ・インタラクションやマルチモーダルコミュニケーション、自動翻訳、言語理解、認知科学、ナビゲーション・システム、ヒューマン・インタフェースなどの研究が行われています。その中の一つのプロジェクトとして、障害者のコンピュータ利用におけるユニバーサルデザインを研究するアルキメデスプロジェクトがあります。
アルキメデス・プロジェクト
- 私の所属するアルキメデス・プロジェクトには内外から多くの研究者が参加して、障害者のインタフェースの研究をしています。リーダーの一人、NeilScott氏はニュージーランド人で、祖国ではリハビリテーションエンジニアのパイオニア的存在です。スタンフォード大学に勤務する以前はカリフォルニア州立大学ノースリッジ校で障害を持つ学生の支援をするアクセス・ラボで音声認識などの実用化に携わられており、当時ノースリッジ校に留学された小浜洋央氏(東京大学、神奈川リハセンターOB?)もNeilと会われたそうです。
- アルキメデス・プロジェクトではTotalAccessSystemというユニバーサル・デザインによるコンピュータ・インタフェースをベースに、音声認識や視線移動、頭部移動などによる入力支援装置や、コンピュータのディスプレイ情報を再処理し文字情報や形態情報を非視覚する出力支援装置などについて研究しています。
- 現在、TASをコンピュータ以外にもアクセスできるようにする研究を開始しています。これによって、いわゆる環境制御装置(ECS)的な利用も可能となり、日常生活のコントロールセンター的な役割も可能となります。ただし、これらのためには家庭電化製品の製造メーカーなどとの共同研究が不可欠です。
- さて、なぜ「アルキメデス・プロジェクト」という名称なのか?という質問がよくあります。アルキメデスとは有名な科学(数学、物理学)者であり、「適当な棒と支点さえあれば、自分は地球をも動かすことが可能である」というテコの原理を発見したことで有名です。つまり、適当な道具さえあれば障害者を含むすべての人に可能性があるということを表現しています。
- CSLIはこの辺り(地図)
次回予告:アメリカ生活について(変更の可能性もあります)
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June 30th, 1998
伊藤英一 Eiichi ITO [ ito@csli.stanford.edu ]
Visiting Scholar, The Archimedes ProjectCSLI Stanford University